#10. Rising NTM, Setting TB〜昇る肺非結核性抗酸菌症、沈む結核〜
はじめに
毎年9月24日から30日は厚生労働省が定める「結核・呼吸器感染症予防週間」ですが、今年から新たに「非結核性抗酸菌症啓発週間」が設けられ、「結核・呼吸器感染症予防週間」及び「非結核性抗酸菌症啓発週間」となりました。
「肺非結核性抗酸菌症」とは、あまり聞き慣れない病名かもしれませんが、近年日本で患者数が増加している呼吸器感染症の一つです。
今回は、結核に似ているようで大きく異なる肺非結核性抗酸菌症について、最近の診断・治療の進歩も交えてご紹介します。
肺NTM症と結核、何が違う?
結核菌群とらい菌を除いた抗酸菌を、非結核性抗酸菌(NTM)と呼びます。
NTMには多くの種類がありますが、日本の肺NTM症で特に多いのが、Mycobacterium avium と Mycobacterium intracellulare です。
合わせてMACと呼び、肺NTM症の約8割を占めています。
結核と肺NTM症は、同じ抗酸菌による感染症ですが、大きな違いがあります。
結核は人から人へ感染する可能性がありますが、肺NTM症は通常、人から人へ感染しません。
NTMは土壌や水などの環境中に広く存在し、菌を吸い込むことなどによって感染すると考えられているため、結核のような隔離は必要ありません。
日本で増加する肺NTM症
日本の肺NTM症の推定罹患率は、2007年には人口10万人あたり年間5.7人でした。
その後、2014年には14.7人、2023年には16.5人と増加し、約16年間でおよそ3倍になりました。
2023年の結核の罹患率は8.1人であり、肺NTM症は結核の約2倍の患者さんが新たに診断されていることになります。
また、肺NTM症は中高年の女性に多いことも特徴です。
喫煙歴や重い肺疾患がなくても発症することがあり、その背景には体格や気管支の構造、ホルモン、遺伝的素因などの関与が考えられています。
進歩する肺NTM症の診断
肺NTM症の主な症状は、咳、痰、血痰などです。しかし、非常にゆっくり進行することがあり、初期にはほとんど症状がない場合もあります。健康診断の胸部X線で偶然発見されることも珍しくありません。
2024年の肺NTM症の診断基準の改訂では、肺MAC症について、画像所見などの臨床的基準を満たしたうえで、1回の喀痰培養陽性とMAC抗体陽性を組み合わせる暫定的診断基準が新たに設けられました。
さらに今年10月には、MEBGEN抗酸菌核酸同定キットが保険収載されました。この検査では、結核菌やMACなど28種類の抗酸菌を一度に同定できます。
従来、菌種の同定には培養によって4〜8週間かかることもありましたが、新しい検査では喀痰から直接、抗酸菌の遺伝子を検出できるため、より早く原因菌を特定できます。
こうした進歩によって、肺NTM症の早期診断が期待されています。
進化する肺NTM症の治療
肺NTM症の治療では、複数の抗菌薬を長期間組み合わせて使用します。特に肺MAC症では、通常2年程度の治療を続けます。
近年は治療薬の選択肢も広がり、2021年にはアミカシンリポソーム吸入用懸濁液が、難治性肺MAC症に対して国内で承認されました。
一方、肺NTM症と診断されても、必ずしもすぐに治療を始めるわけではありません。病変が軽く、症状も乏しい場合には経過観察を選択することもあります。
原則として診断後速やかに治療を開始する肺結核とは異なり、肺NTM症では病状に応じて治療開始のタイミングを判断します。
まとめ
咳の原因の多くは、風邪などの一時的な呼吸器感染症です。しかし、咳が長く続く場合には、喘息、肺炎、肺癌、結核、そして肺NTM症など、さまざまな病気を考える必要があります。
これまであまり知られてこなかった肺NTM症ですが、呼吸器診療において重要性が高まっている病気です。
長引く咳や痰、健康診断で胸部X線に異常を指摘された場合は、呼吸器内科でご相談ください。
この記事の執筆者・監修者

上井 康寛(かみい やすひろ) 逆井記念医院 院長
【資格】
- 医学博士(東京慈恵会医科大学)
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
- 日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医
- 日本感染症学会 感染症専門医
東京慈恵会医科大学を卒業後、呼吸器内科に入局。慈恵医大附属病院や国立病院機構東京病院などで長年研鑽を積んで参りました。
当院では、呼吸器、アレルギー、感染症をはじめとする幅広い内科疾患に対して専門的知見に基づいた診療を行っています。
このブログでは、診察室では時間が限られているためお話ししきれない病気や治療の大切なポイントを、できるだけ分かりやすくお伝えして参ります。