#9. 蕁麻疹更新〜上策、知因而避之。其次、用薬而制之。其下、不知因而不能制之。〜

蕁麻疹ガイドラインの改訂

今年、蕁麻疹の診療ガイドラインが8年ぶりに改訂されました。

そもそも、蕁麻疹とは何でしょうか?

蕁麻疹はさまざまな刺激をきっかけとして、皮膚に存在するマスト細胞が活性化・脱顆粒し、ヒスタミンなどが放出されることで、かゆみを伴う膨疹が出現する疾患です。蕁麻疹は単一の原因で起こるのではなく、外的・内的なさまざまな要因が複雑に関与していると考えられています。そのため、原因を一つに特定できないことも多く、特に慢性的に繰り返す蕁麻疹ではその傾向が顕著です。

しかし、原因がわからなくても不安に思う必要はありません。原因を特定できなくても、蕁麻疹の治療には一定の道筋があるからです。

蕁麻疹の治療の基本は抗ヒスタミン薬ですが、それでも効果が不十分な場合には、抗IgE抗体であるオマリズマブ(ゾレア®)に加え、今回の改訂ではIL-4・IL-13の働きを抑えるデュピルマブ(デュピクセント®)も治療選択肢として示されました。さらに2026年6月には、新しい作用機序を持つ飲み薬であるレミブルチニブ(ラプシド®)が承認されました。

抗ヒスタミン薬が放出されたヒスタミンの働きを抑えるのに対し、オマリズマブはIgEに結合し、デュピルマブはアレルギー反応に関わるサイトカインであるIL-4・IL-13の働きを抑えます。一方、レミブルチニブはBTKという細胞内の分子を阻害し、マスト細胞からヒスタミンなどが放出される手前のシグナルを抑える薬です。これまで抗ヒスタミン薬で効果不十分な場合には注射薬が主な選択肢でしたが、新たに飲み薬という選択肢が加わることになります。

さて、難しい話はこのくらいにして、食欲の秋です

秋は、サンマや戻りガツオ、サバなど、魚がおいしい季節です。ところで、魚を食べた後に突然、全身に蕁麻疹が出たら、皆さんは何を疑うでしょうか?

「魚のアレルギーかな?」

まずそう考える方が多いと思います。もちろん魚そのものに対するアレルギーの可能性もあります。しかし、魚を食べた後に蕁麻疹が出たからといって、必ずしも魚アレルギーとは限りません。

魚を食べた後の蕁麻疹は、魚アレルギー?

魚を食べた後に蕁麻疹が出た場合、魚そのものに対する「魚類アレルギー」以外に、「アニサキスアレルギー」や「ヒスタミン食中毒」などを考える必要があります。魚類アレルギーの主な原因となるのは、魚に含まれる「パルブアルブミン」というタンパク質です。魚によって含まれる量には差があり、マグロやカツオなど、比較的少ない魚もあります。

残念ながら魚類の主要アレルゲンであるパルブアルブミンそのものに対するアレルギー検査は、保険診療で行うことはできません。そもそもパルブアルブミンは魚類で広く共有されているため、アレルギー検査だけで「どの魚が原因か」を判断することは困難です。

魚アレルギーとは異なる、アニサキスアレルギーとは?

成人で特に注意したいのが「アニサキスアレルギー」です。アニサキスはサバ、サンマ、イワシ、アジ、カツオ、マグロなど、私たちが普段よく食べる魚に寄生しています。アニサキスというと、生魚を食べた後に激しい腹痛を起こす「アニサキス症」が有名ですが、アニサキスに対するアレルギーによって蕁麻疹を起こすこともあります。

特徴的なのは、食べてから時間が経って症状が出ることがあるという点です。アニサキスアレルギーは即時型アレルギーに分類されますが、生の魚介類を食べてから12時間以上経って発症することもあり、さらに遅れて症状が現れる例も報告されています。

そのため、原因のわからない蕁麻疹では直前に何を食べたかだけではなく、前日などに魚介類を食べていなかったかを確認することが大切です。また、アニサキスのアレルゲンには熱や加工に強いものもあるため、加熱した魚や缶詰でも蕁麻疹を起こすことがあります。

魚アレルギーとは異なる、ヒスタミン中毒とは?

さらに、魚類アレルギーやアニサキスアレルギーと紛らわしいものに「ヒスタミン中毒」があります。
マグロ、カツオ、サバなどの魚では、保存状態が悪いと魚肉中にヒスタミンが増えることがあります。

蕁麻疹に加え、唇のしびれ、顔の赤み、頭痛、動悸など、アレルギーによく似た症状が短時間で現れた場合に疑われます。しかし、これはアレルギーではなく「食中毒」です。したがって、同じ魚を食べた複数の人に似た症状が出ていれば、ヒスタミン中毒を疑う重要な手がかりになります。

「上策、因を知りてこれを避く。其次、薬をもってこれを制す。其下、因を知らずして、また制する能わず。」

「上兵は謀を伐つ。其次は交を伐つ。其次は兵を伐つ。其下は城を攻む。」とは、孫子の兵法の有名なフレーズですが、これを蕁麻疹の治療に置き換えるなら、こんなところでしょうか。

原因が特定できれば、それを避けることが第一です。
原因が特定できない場合には、原因を探し続けることだけにこだわらず、薬剤を使って症状をしっかり抑えることが大切です。
避けたいのは、原因が特定できないうえに、蕁麻疹も十分におさまらず、かゆみを我慢し続けることです。

薬を飲んでいるのに蕁麻疹を繰り返す、薬をやめるとすぐに症状が出る、かゆみで日常生活に支障が出ているという方は、一度ご相談ください。

この記事の執筆者・監修者

上井 康寛(かみい やすひろ) 逆井記念医院 院長

【資格】

  • 医学博士(東京慈恵会医科大学)
  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
  • 日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医
  • 日本感染症学会 感染症専門医

東京慈恵会医科大学を卒業後、呼吸器内科に入局。慈恵医大附属病院や国立病院機構東京病院などで長年研鑽を積んで参りました。
当院では、呼吸器、アレルギー、感染症をはじめとする幅広い内科疾患に対して専門的知見に基づいた診療を行っています。
このブログでは、診察室では時間が限られているためお話ししきれない病気や治療の大切なポイントを、できるだけ分かりやすくお伝えして参ります。