#8. 「涼」をデザインする〜酷暑対策の新常識〜

今年も厳しい暑さが続いています 

最近は街を歩くと、男女を問わず日傘をさす人が増えました。傘は雨を防ぐためにあるものですが、昔の日本では雨は「恵みの雨」として歓迎されていた、と言います。農作物を育てるために欠かせない存在だったからです。また、梅雨時の雨は木々の緑をいっそう鮮やかに彩り、日本ならではの風情を感じさせてくれます。

しかし近年は、ゲリラ豪雨や線状降水帯など、「雨=困るもの」という印象が強くなりました。そして今は、それに加えて猛烈な暑さも私たちの生活を脅かしています。 時代の移り変わりとともに、傘は雨をしのぐ道具から、強い日差しをもしのぐ道具へと、その役割を広げているのかもしれません。

最近ではハンディファンや空調服、ネッククーラーなどの暑さ対策グッズが次々と登場する一方で、日傘など昔ながらのアイテムも改めて注目されています。今回は、医学と暮らしの知恵の両方の視点から、効果的な暑さ対策をご紹介します。

最新グッズはどこまで効果がある? 

ハンディファンや空調服、ネッククーラーは、それぞれ役割が異なります。ハンディファンや空調服は、風を送り込むことで汗を蒸発しやすくし、衣服内の熱や湿気を逃がすことで体を冷やしています。つまり、汗の気化熱を利用しているのです。

一方、ネッククーラーは首の太い血管を冷やすことで、体の熱を逃がしやすくします。私も自転車で通勤する際はネッククーラーを愛用しています。たまに充電が切れてしまうのが玉に瑕ですが、あるのとないのでは快適さが全く違います。
ただし、これらは携帯性に優れている一方で、効果はあくまで局所的です。冷房や十分な休息、水分補給と組み合わせて使うことが大切です。

近年注目されている冷却法に「手のひら冷却」があります。あまり知られていませんが、人間の手のひらには、体の熱を効率よく逃がすための特殊な血管が多く存在しています。そのため、冷たすぎない保冷剤や冷たいペットボトルを握ることで、効率よく体の熱を逃がすことが期待されています。
外出先でも、冷えたペットボトルが手に入れば十分です。自動販売機やコンビニで買った冷たいペットボトルを握りながら歩くだけでも構いません。特別な道具がなくても取り入れられる、覚えておきたい暑さ対策の一つです。

また、暑さによる体の変化を「見える化」するシールも期待されています。温度に応じて色が変わる特殊なインクと、肌に貼りやすい伸縮性のあるフィルムを組み合わせたもので、運動中や屋外作業中にも使いやすいことが特徴です。
これまで本人の感覚に頼ることが多かった暑さによる変化を、シールの色で客観的に確認し、早めの休憩や水分補給につなげることが期待されています。


熱中症対策は、自分で異変に気付くだけでなく、周囲の人がお互いの状態を確認することも重要です。このような技術が実用化されれば、暑さによる体の変化の兆候を知らせる、新たな見守りの手段になるかもしれません。

日傘は「美容グッズ」であると同時に「熱中症対策グッズ」 

近年、日傘は美容のためだけでなく、熱中症対策としても注目されています。頭や顔に当たる直射日光を遮り、自分の周囲に日陰を作れるためです。

実は私も先日、日傘を購入しました。選んだのは、昭和の日本映画に出てきそうな麻の日傘です。麻の天然の風合いと柔らかな手触りは見た目にも涼しく、風通しのよい生地は夏の日よけにぴったりです。
UVカット加工はされていないため、機能性を重視するか、天然素材ならではの風合いを楽しむか迷いましたが、結局は一目惚れで購入しました。

美容(スキンケア)を重視するなら高機能なUVカットの日傘、風情や見た目の涼しさを楽しむなら昔ながらの麻の日傘。それぞれに良さがあります。
どちらを選ぶにしても、頭の上に日陰を作り、直射日光を避けることは、熱中症予防にも役立ちます。

水分補給する際はミネラルも一緒に摂りましょう

大量に汗をかくと、水分だけでなくナトリウムなどのミネラルも一緒に失われます。 軽い発汗であれば水やお茶で十分ですが、激しい運動、長時間の屋外作業、発熱や下痢・嘔吐時などでは、経口補水液(OS-1)が役立ちます。

実は、生理食塩水は塩分濃度0.9%ですが、経口補水液は約0.3%です。「体液に近い0.9%の方が吸収されやすいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、経口補水液は単なる塩水ではありません。
ブドウ糖とナトリウムを組み合わせることで、小腸が水分を効率よく吸収できるよう設計されています。そのため、スポーツドリンクとは目的そのものが異なります。つまり、「塩分が多い飲み物」ではなく、「体が水分を取り込みやすいよう設計された飲み物」なのです。

また、大量に汗をかいた後に、真水だけを一度に大量に飲むと、体液中のミネラルの濃度が下がり、頭痛や吐き気、意識障害など、さまざまな症状を起こすことがあります。夏の水分補給は、「水を飲む」だけでなく、「失ったミネラルも補う」ことがポイントです。

この酷暑を乗り切るために 

古くから夏の蒸し暑さで知られる京都の町家では、「暑くなった家を冷やす」のではなく、「熱を家に入れない」「風の通り道をつくる」ことが大切にされてきました。すだれや深い軒で直射日光を遮り、通り庭で風を通し、風鈴や麻など五感でも涼を感じる――。

先人たちは、暑さを我慢するのではなく、上手に付き合う知恵を育んできたのです。

五感で「涼」をつくる昔からの知恵と、科学で体を守る現代の熱中症対策。その両方を上手に取り入れ、「涼」をデザインすることが、これからの酷暑対策の新常識になるのかもしれません。

この記事の執筆者・監修者

上井 康寛(かみい やすひろ) 逆井記念医院 院長

【資格】

  • 医学博士(東京慈恵会医科大学)
  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
  • 日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医
  • 日本感染症学会 感染症専門医

東京慈恵会医科大学を卒業後、呼吸器内科に入局。慈恵医大附属病院や国立病院機構東京病院などで長年研鑽を積んで参りました。
当院では、呼吸器、アレルギー、感染症をはじめとする幅広い内科疾患に対して専門的知見に基づいた診療を行っています。
このブログでは、診察室では時間が限られているためお話ししきれない病気や治療の大切なポイントを、できるだけ分かりやすくお伝えして参ります。

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