#5 彼を知り己を知れば、百戦危うからず〜専門医が解説するメディカルダイエットについて〜

最近太ってきたと感じたら

「食べる量が増えていないのに、太ってきた」

「年齢と共に、痩せにくくなった」

こうした悩みを持つ方は少なくありません。体重が増えてくると、見た目の問題だけでなく、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病にも関わってきます。しかし、気合いで何とかするという精神論だけでは解決できないのが現実です。

古典に「彼を知り己を知れば、百戦危うからず」という言葉があります。これは、相手と自分の両方を正しく理解すれば、物事に失敗しにくいという意味です。
ダイエットにおいては、「彼」は食事や運動などの外的要因、「己」は代謝や体質などの内的要因です。

今回は、医学的な視点から、なぜ太るのか、どうすれば改善できるのかをわかりやすく解説します。

太るのは、余ったエネルギーが貯金されるから

食事をすると、糖質はブドウ糖に分解され、血糖値が上昇します。すると膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンの役割は、一般的には血糖値を下げるホルモンと理解されていますが、より正確には、血糖を細胞内に取り込ませるホルモンです。

取り込まれた糖は、まずエネルギーとして使われ、余った分は肝臓などに蓄えられます。さらに余ると、脂肪組織に中性脂肪として貯蓄されます。例えるなら、摂取カロリーを収入とし、消費カロリーを支出とすると、使い切れなかったエネルギーは、中性脂肪として貯金されることになります。

中性脂肪が過剰に蓄積した状態を肥満(BMI≧25kg/m2)といいますが、「肥満」と「肥満症」は異なります。肥満症は、生活習慣病や変形性関節症をはじめとする肥満に関連する健康障害を伴う状態であり、減量を目的とした医学的介入が必要な疾患です。

食事と運動を工夫して、サステナブルな生活習慣をつくろう

若い頃は多少食べ過ぎても太らなかったのに、年齢とともに太りやすくなる。これは珍しいことではありません。主な原因は、基礎代謝と活動量の低下です。その結果、昔と同じ食事量でも、今の体には余剰となり、脂肪として蓄積されやすくなります。

ダイエットの基本は、食事や運動など生活習慣の改善です。食事については以下にポイントをまとめますが、大切なのは単に制限することではありません。出汁の旨味やスパイスを活用しながら、減塩にも配慮しつつ、満足感を得られる食事にすることが重要です。

・腹八分目を意識し、「少し物足りない」と感じる程度で食事を終える習慣をつける

・たんぱく質、食物繊維をしっかり摂り、炭水化物、脂質は過剰にならないようにする

・食べる順番を工夫し、炭水化物はなるべく最後にする

・寝る前2~3時間は食事を控えるようにする

・白い砂糖や白米、小麦粉などの精製された糖質は摂りすぎに注意し、玄米や蕎麦など血糖が上がりにくい食品を選ぶ

・魚を積極的に取り入れ、EPA・DHAなどの不飽和脂肪酸(中性脂肪低下や動脈硬化予防)を摂取する

・肉を食べる場合は、牛肉の赤身や羊肉など、脂肪の少ない部位を選ぶ

・酸化した油やお総菜など時間が経過した揚げ物は避ける

脂肪を効率よく燃焼するためには、ミトコンドリア内の代謝回路がスムーズに回ることが重要であり、そのためには運動が不可欠です。ランニングや水泳などの有酸素運動を20~30分、週3~4回行うのが理想的ですが、現実的には困難な場合も多いでしょう。その場合は、ウォーキングや自転車を通勤などに組み込むことで、無理なく続けることができます。

例えば、私自身も五香駅からクリニックまで、往復20~30分程度を自転車で通っています。それでも難しい場合は、ランチのあとに少し遠回りして歩くなど、食後に体を軽く動かすだけでも、食後血糖の上昇、インスリンの過剰分泌を抑え、脂肪の蓄積を抑える効果が期待できます。

なお、余談ですが、脂肪燃焼に関連する栄養素として、L-カルニチンが知られています。L-カルニチンは羊肉や牛肉の赤身に比較的多く含まれていますが、不足すると、脂肪酸をミトコンドリア内にうまく取り込むことができず、結果として脂肪が燃えにくい状態になります。

L-カルニチンはメディカルダイエットの自費診療において、脂肪燃焼注射として用いられることもあります。ただし、L-カルニチン単独で脂肪燃焼が大きく促進されるわけではなく、あくまで食事や運動と組み合わせて代謝をサポートする補助的な手段と考えることが重要です。

なぜゼップバウンドがメディカルダイエットで注目されているのか

ここまでの生活習慣改善でも十分な効果が得られない場合、生活習慣病や変形性関節症などを伴う肥満症に至っている場合には、メディカルダイエットを検討します。
摂取カロリーを減らすという観点で注目されているのが、GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチドです。チルゼパチドには、糖尿病治療薬であるマンジャロ、肥満症治療薬であるゼップバウンドがありますが、有効成分は同一です。
これらは、小腸から分泌されるホルモンであるインクレチンの作用を利用した薬で、

・脳の満腹中枢に作用し、食欲を抑える

・胃排出を遅らせ、満腹感を持続させる

といった効果があります。その結果、無理な我慢をせずに食事量を減らすことができ、最大で約20%程度の体重減少効果が報告されています。

糖尿病のある患者さんに対しては、適応に応じてマンジャロの処方が可能です。
ゼップバウンドは肥満症に対して保険適応がありますが、現時点では使用条件に一定の制限があり、当院では保険診療としての処方は行っておりません。
一方で、メディカルダイエットとして自費診療での処方は可能です。

まとめ

肥満や肥満症は、単なる意思の弱さによるものではなく、ダイエットは精神論だけで解決できるものでもありません。
現代では、メディカルダイエットとして、これらに対して医学的にアプローチできる時代になりました。

生活習慣の見直しと、必要に応じた医療を組み合わせることで、長期的に継続可能なダイエットが実現します。
ダイエットは、正しい知識に基づいて行えば決して難しいものではありません。体重でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

この記事の執筆者・監修者

上井 康寛(かみい やすひろ) 逆井記念医院 院長

【資格】

  • 医学博士(東京慈恵会医科大学)
  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
  • 日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医
  • 日本感染症学会 感染症専門医

東京慈恵会医科大学を卒業後、呼吸器内科に入局。慈恵医大附属病院や国立病院機構東京病院などで長年研鑽を積んで参りました。
当院では、呼吸器、アレルギー、感染症をはじめとする幅広い内科疾患に対して専門的知見に基づいた診療を行っています。
このブログでは、診察室では時間が限られているためお話ししきれない病気や治療の大切なポイントを、できるだけ分かりやすくお伝えして参ります。