「免疫力アップ」は本当か? ~医師が解説する免疫の仕組み~

はじめに

記念すべき初回テーマとして、「免疫」を取り上げました。免疫は、私自身が博士課程で研究に携わってきた分野であり、基礎と臨床の両面から深く関わってきました。2018年には本庶佑先生、2025年には坂口志文先生がノーベル生理学・医学賞を受賞し、社会的にも大きな注目を集めている分野です。

免疫にかかわる言葉は、私たちが意識しなくても日常のあらゆる場面にあふれています。「◯◯すると免疫力アップ」―テレビやインターネット、SNSでこうした表現を目にしない日はないでしょう。健康を維持するために免疫が重要であることは、もはや一般常識といって過言ではありません。

私たちは日常的に、免疫が「上がった」「下がった」という言葉を使います。しかし実際には、免疫を一つの数値で表す医学的指標は存在せず、明確な基準で評価することはできません。一方で、口内炎ができやすい、風邪の治りが遅いと感じたときに、「最近ストレスが多くて免疫が下がっているのかもしれない」と思った経験のある方も多いのではないでしょうか。

そこで、免疫とは何か、そして免疫と上手に付き合うために大切なことを、できるだけ分かりやすく解説してみたいと思います。

免疫とは、「自己」と「非自己」を見分ける仕組み

人間の体は、約60兆個もの細胞から成り立っています。これほど多くの細胞が集まって一つの個体として機能するためには、体の外から侵入してくる病原体、体の中で生まれてくる変異たんぱく質などを正確に識別し、必要なものは守り、不要なものは排除する必要があります。

この「自己(自分のもの)」と「非自己(自分ではないもの)」を見分ける仕組みこそが免疫の本質です。

「免疫」という言葉は、もともと「課税や義務の免除」を意味するラテン語immunisに由来します。近代では「外交特権(immunité diplomatique)」という意味でも使われています。そこから転じて、免疫とは、一度かかった病気には二度目はかかりにくい、いわば免除された特権的な状態を指す言葉として用いられるようになりました。免疫は大きく、自然免疫と獲得免疫に分けることができます。

自然免疫

自然免疫は、体内に病原体が侵入した直後から働く免疫システムです。特定の病原体を識別することはできませんが、迅速に反応するという特徴があります。これは例えるなら、警察のような存在です。犯人が現れたときに110番通報をすると、犯人が誰かは分からなくても、まず現場に急行して対応してくれます。

重要なのは、自然免疫を積極的に「上げる」確立された方法はないという点です。一方で、ストレス、睡眠不足、運動不足、偏食、糖尿病といった要素で自然免疫は容易に低下します。したがって、自然免疫において重要なのは、「低下させない」ように維持することです。不規則な生活習慣やストレスを避ける生活は、自然免疫を保つための基本といえます。

食事についても、特定の食品で免疫を「上げる」ことを狙うよりも、偏食を避け、必要な栄養素を過不足なく摂取するのが大切です。特にビタミンやミネラル、亜鉛は、免疫細胞の維持や機能発現を支える基盤となります。また、日本人の腸内細菌叢は長い食文化を反映して、和食との親和性が高いと考えられています。食物繊維や発酵食品を適度に取り入れることで、腸内細菌のバランスを保つことにつながります。

獲得免疫

獲得免疫は、特定の病原体を記憶し、識別することができる免疫システムです。一度遭遇した病原体に対しては、再び侵入してきた際に、より速く、より強く反応します。これは例えるなら、軍隊のような存在です。準備や作戦立案には時間がかかりますが、司令塔と兵器を備え、特定の敵をピンポイントで排除することができます。

獲得免疫を意図的かつ確実に上昇させる方法は、現時点ではワクチン接種しかありません。

一方で、加齢、ステロイド・免疫抑制剤の使用によって、獲得免疫は低下します。特に加齢による低下は避けられないため、ご高齢の方では、インフルエンザ、新型コロナ、肺炎球菌、帯状疱疹など、重症化リスクの高い感染症に対する積極的なワクチン接種が重要となります。

まとめ:免疫は「上げる」よりも「整える」ことが重要

近年、がん治療に用いられる免疫チェックポイント阻害薬は、免疫のブレーキを外すことでがん細胞に対する免疫反応を強める治療です。一方で、ブレーキが外れた状態で免疫のアクセルが踏まれ続ける結果、自分の正常な細胞まで攻撃してしまい、自己免疫疾患に似た副作用が起こることも知られています。これは、免疫が強ければ強いほど良い、という単純なものではないことを分かりやすく示す例といえるでしょう。以上を踏まえると、重要なのは次の二つです。

  • ストレスを避け、規則正しい生活習慣を通じて、自然免疫を低下させないこと
  • ワクチン接種によって、特定の病原体に対する獲得免疫を上昇させること

免疫は「上げる」ものではなく、「整える」ことが重要であると考えられます。

この記事の執筆者・監修者

上井 康寛(かみい やすひろ) 逆井記念医院 院長

【資格】

  • 医学博士(東京慈恵会医科大学)
  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
  • 日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医
  • 日本感染症学会 感染症専門医

東京慈恵会医科大学を卒業後、呼吸器内科に入局。慈恵医大附属病院や国立病院機構東京病院などで長年研鑽を積んで参りました。
当院では、呼吸器、アレルギー、感染症など、幅広い内科疾患に対して専門的知見に基づいた診療を行っています。
このブログでは、診察室では時間が限られているためお話ししきれない病気や治療の大切なポイントを、できるだけ分かりやすくお伝えして参ります。

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